西さがみ・季節の花ノート 2022年09月16日号

西さがみ・季節の花ノート [No.51] カラスウリ -うり科-

カラスウリと云えば朱赤色の果実をすぐに連想するが、ここは季節の花シリーズなので今回は夏の花になる。
写眞はそのカラスウリの花が、夕刻陽が落ちた頃、開花しはじめたところである。純白の花は五弁にわかれ、その先端は糸よりも細く裂け、そして網のように下方に垂れてゆく。
幻想的でやがて妖しいまでに美くしいが、翌朝ふたたび見るとすでにしぼんでいる。虫媒花だから夜の闇にも訪れる昆虫がいて、そのためにこんなにも繊細な演出をするのである。
果が熟してから、足柄平野の子供たちはこれを潰して、手の甲に塗りつけて赤ぎれや霜やけの薬だとした。誰もが経験したあのかゆさも今は語り草だ。
さらに中から黒く堅い種子が出てきて、その姿から子供たちはこれを恵比須・大黒に見立て遊んだ。文学で「玉章」と云うのは、手紙を折って結んだ姿に、種子の姿がそっくりだからである。

(箱根カルチャー主宰 田代道彌)

-西さがみ・季節の花ノート, 2022年09月16日号