西さがみ・季節の花ノート 2022年10月07日号

西さがみ・季節の花ノート [No.52] ツルボ -ゆり科-

陽当りのよい土手などに林立して咲く。その花色は野の花には稀なほどの、優しい淡紅色である。別名に参内傘(さんだいがさ)があるが、これは公卿などが宮中に参内する時、後からさしかけるあの参内傘を折りすぼめた時の姿に、花の形状が似ているからだという。
しかしツルボは難解な草の名である。本種は日本固有種ではなく、縄文か弥生時代に他の栽培植物に随伴して大陸から渡来した。このような種類を史前帰化植物と呼んでいる。
江戸時代の本草学の諸書をみると、ツルボを京都ではスミラ、壱岐でスビラ、肥前でスミラは別種のアマナに代り、宮古島でスムナはネギになり、東国ではカタクリをスミラと呼ぶ地域もあった。
するとツルボもスミラも、もとは根茎(球根)を喰べることで共通している。ツルボの種名はこのようにまさに、弥生時代頃からの悠久の古称と思われる。

(箱根カルチャー主宰 田代道彌)

-西さがみ・季節の花ノート, 2022年10月07日号