西さがみ・季節の花ノート 2023年03月03日号

西さがみ・季節の花ノート [No.57] クサボケ -ばら科-

2023/03/31


庭木の春に花咲くボケは、中国原産の園芸植物である。それに対して里山の草原などに自生し、朱赤色の花をつけるのはクサボケでボケとは混同できない。
ボケは地上に幹が立ち上り、樹髙は二米ほどに達する。これに対してクサボケは幹が地中に横臥する傾向があり、地上には地中の幹から発生した枝が林立するばかりとなる。
そのためクサボケは枝を切って花入れに挿そうとしても、花は枝の基部に集合して枝の先端近くには一花も着いていないことが多い。
江戸中期の人近衛予樂院の茶や華道に関する談話を書き留めた『槐記(かいき)』に、真直な枝が特徴の桃と、屈曲する枝の梅との対比を論じて、だから桃を切り詰めたら梅になると戒めている一節がある。
花一輪を生けるにも自然観察が大事だと云っているのだが、ことさらクサボケは枝の先端を切り去ると、てきめん、梅になってしまう。

(箱根カルチャー主宰 田代道彌)

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